愛犬小次郎が年頃になり、一度こどもを産ませようかという話になった。小次郎と言ってもジャックラッセルテリアのメスで、一度も産まずに避妊手術をするとホルモンのバランスが悪くなると聞いた。
受精は成功し、キュッと締まった筋肉質の体形が、だんだん子持ちシシャモのようなおなかに変わっていった。カミさんが予定日の1週間前にレントゲンを撮ろうかと言うので、そんなことしなくてもいいよと答えた。小次郎の前にいたコロは庭で飼っていて近所のオスに見初められ、3度も出産したが何の手もかけないうちにひとりで産んだ。しかし、今度は室内で飼っているのでカミさんも日々気になるのだろう、結局レントゲンを撮って4匹と判明した。 娘がダンボールで保育室を作り、屋根の部分に母子5匹の絵を描いた。
予定日より早く出産が始まった。3人で見守ったがなかなか出てこない。1時間ほどかけてようやく1匹目を産み落としたものの、息をしない。背中をさすってもだめ。あわてて動物病院に駆け込んだ。「仮死状態ですよね、なんとかなりますかね」とカミさんは医師にすがりつく。医師も背中をさするしか手がない。
カミさんには明らかに、自分が2番目の子を死産したときのことが蘇っていた。「どうですかね、なんとかして」と、子犬を諦められないようすだが、私は小次郎の方が気になった。まだ3匹いる。次のことを考えなければ。
医師は帝王切開の方法もある、と言った。犬に帝王切開なんてと思ったが、次々死産では目も当てられない。今度は小次郎を連れに戻り、手術を託した。麻酔を打つなどして2時間で無事出産。その日に連れ帰る。
翌日、最初の子の遺体を引き取り、3人で庭に埋めてやった。「せっかく生まれてきたのに」とカミさんがつぶやく。娘は早々と4匹の子犬の絵を描いたことを気にした。私は「自然界のことだから。いつでも全部育つわけではない。だから一度に4匹も産むんだ」と答えた。
3匹はすくすくと育っている。まだ鼻の頭も足の裏もピンク色で、なるほど犬も“赤”ちゃんだ。目も見えず立ちもできず、しかしだれに教えられなくても這って行って小次郎のおっぱいにぶらさがる。小次郎も甲斐甲斐しく授乳と下の世話を続ける。独りモノの時には想像もできない献身ぶりだ。本能は素晴らしい。毎日3人で飽きずに眺めている。
|