カミさんの憤懣は収まらず、日を改めて上司の所長を呼んだ。私も同席し、取りなし役を務めるとともに、どうしてこんな事態になったと思うか、状況悪化は把握していたのか、どう対処すべきだったか、と尋ねた。
こういう場合、上司は平身低頭してなるべく余計なことは言わないのが上策となる。私は自分の解釈を説明した。
今回の経緯はどっちもどっちの面があり、客だからと言ってすべての非を相手に押し付けるつもりはない。しかし私が上司なら、お互いがそっぽを向いて険悪になる前に、スムーズな進捗が図れるよう部下を指導するか、早めに交代させるなりしただろう。
着工の1カ月前に仕様決定するのが決まりと言っても、その後に再三変更が起きるのが通例で、契約書は何通もになりますと、営業マンからは前もって聞かされていた。うちの会社でも扱う品物は違うが、機械の仕様変更は、据え付けした後でさえ起きることがある。使う側と造る側のイメージの一致はそれほど難しい。まして家のリフォームは、夢を売る仕事ではないか。
コーディネーターが自分の言い分を堂々と言い返したこと、電気工事担当者が返品はカミさんに非があると口を出したことは、社内や下請け先にまで彼女に都合のよい情報が広がっていたことを裏付けている。人間はだれしも自分を正当化して話したがるものだ。上司はそれを差し引いて報告を受けなければいけない。
工期を守るという点では、彼女の責任感は強かった。しかし、自分のペースで事を進めようとするあまり、肝心なはずの客の思いを置き去りにしてしまった。そして、2人の反目が進捗をさらに遅らせた。顧客満足を忘れてなんのための工期なのか。工期死守は顧客のためでなく、ひょっとして下請けの作業日程管理のためだったのか。
私の話をじっと聞いていた上司は「ご意見を今後に生かすとともに、本人を連れてあらためてお詫びに伺いたい」と言った。私は、彼女の性格からして形だけの謝罪になるので、再訪は必要ないと答えた。
ごたごたはあったが、リフォームで住空間は生まれ変わったし、工事責任者も営業マンもよくやってくれた。コーディネーターの特異なキャラクターも、私から見れば新鮮な驚きだった。「人を嫌悪するとエネルギーがたくさんいるね」とつぶやいたカミさんも、そう思って切り替えるとよい。(おわり)