企業の寿命30年説というのがある。歌手は1曲ヒットすると10年食えるというが、企業はどんな業種でも同じことをやっていたら30年で終わりが来る。だから「きのうと違う明日を創る、変革は行き詰まりが出発点」になる。中国や韓国が、日本の技術や技術者やブランドまでも買いあさっているが、行き詰まって持っていた技術やノウハウを売ったら食いつぶしておしまいになる。メイドインジャパンでなくても、メイドバイジャパニーズを手放したらやることがなくなる、生きる道がなくなるということ。
メイドバイジャパニーズの成功事例をひとつ挙げよう。今、中国で日本から進出したラーメン店がブームを起こしている。元祖中国のラーメンは、私も食べたことがあるが、スープがぬるく、麺に腰がなく、決してうまくない。日本仕込みのラーメンはスープにコクや深みがあり、麺も腰が強く、中国人が開店前から列を作る人気を集めている。日本のラーメンは、北は北海道から南は鹿児島まで群雄割拠してしのぎを削っている。その環境の中で、日本人がラーメンのイノベーションに成功した。
海外展開すれば、技術の流出は防ぎきれないが、丸裸にされないためには必ずブラックボックスを作っておかねばならない。コカコーラの原液の配合は、マル秘中のマル秘で、社長と副社長しか知らないという話はかつて有名だった。だから2人は決して一緒の飛行機には乗らない。飛行機が落ちたらコカコーラが作れなくなるからだ。
ただし、よいものなら売れるかというと、技術だけでは勝てない。現地の市場をよく知って、価格、仕様、売り方を現地に合わせることも必要になる。先ほどのラーメンの話とは逆に、中国人は昔から海外へ出てゆくことに積極的で、抵抗感がなく、日銭の入る飲食業で生計を立て、同胞と中華街を作ってきた。中国人は世界各地に中華街を作って、中華料理が広まったが、国によってそれぞれみんな味が違う。
アメリカではアメリカ人好みのアメリカ風中華料理または、中華風アメリカ料理にカスタマイズされている。だからメキシコにはメキシコの中華料理があり、シンガポールにはシンガポールの中華料理がある。ところ変われば品変わる。そのへんの呼吸を中国人はよく心得ている。
これは日本のある家庭用ガスコンロメーカーの話だが、インドネシアで1台2000円のコンロを売っている。それが市場価格だから価格を合わせなければ売れない。現地生産なので生産コストは安いが、それだけで2000円は実現しない。価格を抑えるためにできるだけ機能を簡素にして、ガス漏れ防止装置などは付いていない。そんなコンロは機密性の高い日本の住宅事情ではとても使えない、売れないが、開放性の高い現地の家屋では充分安全で、余分な装置を付けるのは過剰仕様ということになる。(つづく)